Title: たん。
冬の空気は輪郭を際立させる。
音や、匂いや、色、切れた唇の痛みや、たばこの煙、触れた手の冷たさ。
その一つ一つの感触を確かめるように、白い息を吐いては、肺いっぱいに冷たい空気を流し込む。
その色鮮やかな感触は、記憶の中の境界を曖昧にする。
ランドセル背負って霜柱を踏みしめていた通学路。
夜間学習の帰り道。
かじかむ手で握るバイクのアクセル。
あの朝、あの夜、あの日のあの言葉。
そのすべての感触が今のこの瞬間とつながっていて、記憶も思い出も、点ではなくて、一つの線の上にあるのだと。
ぽっかり浮かぶ月の下で、もう一度白い息を吐いた。
その白い息のどこまでが吐息で、どこまでがたばこの煙なのか、考えようとしたけど、それはもうどちらでもいい。
吐息と煙の境界は曖昧でも、そこにある白い呼吸の輪郭がはっきりとしていればそれはもう線の上。
きっとそういうことなんだ。
なにもかも。
POSTED @ 2018.01.05 |
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