Title: インド旅 ニューデリー駅編

ニューデリー駅22時発の寝台特急でブッダガヤに向かう。

ニューデリー駅に20時に到着。夜のニューデリー駅に旅行者は全くいない。右を見ても左を見てもインド人、薄暗い駅はごった返していて、構内の床にはあちこちに寝転がっている人がいる。その人たちを踏まないようにホームに向かおうと試みるのだが、その人たちの白くぎょろりとした目が一斉にこちらに向けられるたびにおどおどしながら、頭の中で地球の歩き方のトラブル集をおさらいする。

何度も譫言のようにNoProblem、NoProblemとつぶやき自分を鼓舞する。

この時点でまだ旅人モードにスイッチが入っていないので、おどおどっぷりも焦点のあわなさっぷりも半端ない。うっかりインド人に腕をつかまれ時には腰を抜かす勢いだ。

しかしなんと実は、今回電車に乗るまでサポートしてくれるという強力な助っ人ダブド君と知り合っていたので、若干びびりながらもいつもダブド君の顔色をみつつ助けを請うていたのだ。

(ダブド基本スペック:23才:彼女無し:Tシャツには「男山」と記載:日本の御徒町で親戚がカレーショップを営み、かなりの日本贔屓:日本語は片言だけど簡単な意思疎通は可能:本名はめちゃくちゃ長いので通称ダブちゃん)

そして今回のまずファーストアドベンチャーがここで訪れるのだが、実は日本から手配した寝台列車の切符はWL(ウェイティングリスト)といって、いわばキャンセル待ち状態だったのだ。まあ当日までにはいけるだろうと高をくくって駅まできたものの、実際この時点で電車に乗れるかどうかはわからなかったのでかなりの不安を抱えていたのだ。

「ダブちゃんこれ電車のれるかね?」

「うん、ちょっとまってね・・・あれ掲示板に書いてないね・・・いま調べてくるね」

そういってダブちゃんは駅の窓口に消えていって、数分後に肩を落として戻ってくる。

「う~ん、まだ乗れるかわからない、とりあえずホームへ行こう、ホームは9番だ」

「おお・・・まだわかんないのか・・・OKとりあえずいっちまうか」

112.jpg
【男山のTシャツを着ているのがダブちゃん】

ってなわけで、ダブちゃんについて、駅構内を奥へ奥へすすむ、数々のインド人をかき分け、踏まないように乗り越えて、9番ホームにたどり着く。

L1000252.jpg
【ごったがえすニューデリー駅】

「もしこれ電車に乗れる場合にはSLクラスというクラスだからここにいればたぶん大丈夫だ」とダブちゃんはいう。

その言葉を信じて、一緒に談笑しつつ電車を待つ。笑ってられるのがここまでだったということは、このときの二人は微塵も気づいていないのだった。

待つこと数分、隣のインド人が口をもごもごさせながら話しかけてくる。

「へいジャポーネおまえどこいくんだ?」

「ん。おらブッダガヤだ」

「そうか、気をつけろよあそこには悪い奴もたくさんいるからだまされるんじゃないぞ!」

「お・・・そうなのか・・・サンクスきをつけるよ」

「ところでおまえ電車はSLクラスなのか?」

「おお、そうだ」

「じゃここじゃないぞ」

「え・・・そうなの?」

それを聞いていたダブちゃんの顔色が変わる。そしてダブちゃんとそのインド人がヒンドゥー語でなにやら話し合っている。しばし会議をした後ダブちゃんが一言。

「うん。ここじゃないわ。なんかホームに乗客名簿が張り出されていて、そこに名前と乗る車両と番号が書いてあるそうだ」

「ダブちゃん・・・OKじゃそれを見に行こう」

そしてホーム中央まで行くと案の定の人だかり、みんな自分の座席を確認している。さっきまでそれを知らなかった癖にダブちゃん、自信満々であれだあれだ!おれに着いてこいというジェスチャーをする。

そしてその座席表を確認。

座席表を確認。

座席表を確認。

座席表を確認。

ん・・・なんど確認しても名前無し。

外国人らしき名前なんか1つもなし。


ここでダブちゃんの顔をみて、もしかしたらこれは非常事態なんじゃないかという空気がふつふつ湧いてくる。もしかしたら今日電車に乗るのは無理かもしれない・・・このあとこの時間に宿を探せるのだろうか・・・なんてことが頭をよぎる。

「ダ・・・ダブちゃん、これここであってるのかな・・・他のところにもあるかもしれないね・・・」と遠慮気味に言うと、ダブちゃんさっきまでは日本語で話していたのに、ぶっきらぼうに、just moment no problemと言い放ってひたすら乗車表を見ている、そしてしまいには、ちょっと自分でも見て!と怒られる始末。

自分でも何度も確認するが名前無し。そして、このあとダブちゃんの一言で自分の中の旅人スイッチが完全にオンになったのだ。

119.jpg
【ホーム中央の座席表】

「ダブちゃん、いつも電車に乗るときはここに必ず名前が載ってるの?」

すると、ダブちゃん、すこしうつむいて間を置いたあとにこう言った。

「僕はいままで電車に乗ったことがない」

「おい!乗ったことねぇのかよ!」

あんた自信満々にNoProblemっていったじゃない・・・あんた目をキラキラさせながらここで待ってれば間違いないっていったじゃない・・・あんたこの期に及んでジュースを買いに行ったままこの孤独な日本人を10分も放置したじゃない・・・

(この時にはインド人の特性がいまいちつかみ切れていなかったので、ダブちゃんなんていい加減な奴なんだと思ったけど、でもこれがダブちゃんの精一杯の優しさであり、誠意だというのは後になってから感じることができたのだ)

しかしこの瞬間、頭の中でなにかが確実に切り替わったのがわかった。

日本人モードは解除され完全に旅人モードにはいったのだ。

(旅人モードとは基本的に、もう自分でやるしかないという開き直りにちかい境地、アジアを旅する上でこの境地にならないとなにも前に進まない時がある。しかし副作用としては日本人特有のモラルやルールなどという言葉がふっとび、列に並ばなくなる、信号を守らなくなる、わけのわからない理由を怯まずに自信をもって押し通すことができるようになる。車の行き交う交差点で手で車を制してずんずん歩いて行けるようになる、屋台のものとか平気で食べられるようになる、どこでもうんこできるようになり、どこでも眠れるようになる。そして胡散臭い奴のさばき方が日本でキャッチを振り払うベテランキャバ嬢みたいに見事になる)

ここまできたら、、ダブちゃんには頼らずに、最悪どこかに適当に潜り込んでしまおうという気持ちで固まったのだ。もし車掌に怒られても旅行者特権でとぼけて下ろされるところまでいってしまおうと決めていたのだ。それに最後の最後は賄賂でも握らせればなんとかなるだろうと腹をくくったのだ。

そこでダブちゃんにもその旨を告げる。

「ダブちゃん、ありがとう。もう大丈夫、ここにくる電車がブッダガヤまでいくことがわかっただけでも十分だよ、こんなに遅い時間までありがとう、あとはなんとかするぜ、というかこのままきた電車に乗り込んでやろうと思う」

するとダブちゃん。ここは意外にまじめに。

「いやそれはまずいよ。みつかったら大変だよ」

というので、ちょっとめんどいなとおもいつつも。

「まだ乗れないと決まったわけじゃないし、さっき車掌がいたからこっちはそいつに聞いてみる、ダブちゃんはもう一回ポーターにきいてきて」

といって二手に分かれて、電車にのれる方法を探し始めた矢先。

ホームに電車が入ってきたのだ。

L1000257.jpg
【自分の乗る電車が入線】

L1000259.jpg
【それでも汗だくで座席を探してくれているダブちゃん】

確かに乗るはずの電車。さすがにここまでくると自分の中でもちょっと焦りがでてくる。一瞬でどこに潜り込むかを考えたのだが、自由席は信じられないくらいの隊列を組んだインド人が並んでいて、まさに紙一枚挟むスキマもないくらいにぴったりとならんでいる。

(後から聞いた話では、ずる込み防止の為に前の人の肩をしっかりもって、一列になるのは自由席をとるための基本らしい)

予約席には、入り口に車掌が立っていてチケットを確認している。そいつがいなくなった瞬間に潜り込んでやろうと、機をうかがってそのドアのあたりをうろうろとする。

するとさすがに大きなバックパックを背負った日本人が、うろうろしていれば、車掌も気になるようで、こちらにチケットを見せろといってくるので仕方なく、自分のキャンセル待ちのままのeチケットを見せると、車掌は案の定首を振ってチケットを突き返す。

そこで間髪入れずに、なんとしても乗りたいのだがなんとかならないかと懇願する。

すると車掌、ちょっとここで待ってなさいといいどこかへ去っていく。

すると車掌と入れ違いで満面の笑みのダブちゃんが戻ってくる。

「なんか聞いてきたら、発車の10分前に最後のキャンセル待ちを確認して、WLの中で繰り上げになった人を張り出すらしい、だからここで待ってればいいって」

ここで最後の望みが繋がったのだ。

そしてほとんどの人が荷物を積み込み、ホームの人もまばらになって。こちらの我慢と焦りも限界に近づいたときに車掌が1枚の紙をドアに貼りだしたのだ。

そしてそれをむさぼるように確認しようと身を乗り出したら、なぜか自分を押しのけてダブちゃんがそれを見に行ったのが気に入らなかったのだけど、ダブちゃんはすぐに満面の笑みで振り向き「あったよぉ!!」と声を上げた。

L1000260.jpg
【名前を発見 上から6行目にしっかりと】

そこにはしっかりと自分の名前が。ちゃんと座席をあてがわれていたのだ。

なんかそのダブちゃんのその汗だくっぷりと満面の笑顔をみたら、なんかちょっとイライラしてた自分が馬鹿らしくなってきて、ダブちゃんと堅く握手をして、ダブちゃん本当にありがとう、助かったよと告げると電車に乗り込んだ。

今思えば、これがインド人の魅力なのだ。汗だくになって、見も知らずの日本人の為にホームを何往復も走ってくれたのだ。ちょっといい加減で、その適当加減にいらっとすることもあるけど、ここまで誰かの為にできるってやっぱりすごいことなのだ。ダブちゃん本当にありがとう。

なぜかその後車掌とダブちゃんが堅い握手をしていたのが謎なのだが、それはもうあえて突っ込みもせずに、別れをしっかりと惜しむまもなくそこでダブちゃんに別れを告げて、重いバックパックを背負い、寝台列車の中に乗り込むのであった。

そして乗り込むと同時に列車は発車のベルをならしてブッダガヤに向けてゆっくりと走り出す。

夢にまでみた深夜特急だ。

POSTED @ 2011.08.20 | Comment (2) | Trackback (0)

インドの電車に乗るのって、難しそうですね(^_^;)
結果オーライで、計画通りに出発で来て、良かったですね(*^^)v
これからの旅行記が楽しみです(*^^)v
Twitter:sadchan

Posted by: sadchan @ 2011年8月21日 10:14

コメントありがとうございます!ほんと結局いつも旅は結果オーライで進んでいくのです。トラブルも醍醐味のうちだと思うことにしてます 笑

Posted by: rbace @ 2011年9月 4日 23:14

コメントを書く。