Title: ホトトサヤ。

夜布団の中で、なにかとなにかが繋がったりして、それを言葉にしたときに、とてもいいフレーズが思いついたり、これは書き残しておきたいなと思うようなことが次から次にわいてくるのだけど、でも寒いし、眠いし、布団から出てパソコンの前にもいきたくないし、近くに紙やペンもないし、頭の中でこの記憶をHDDに書き込むみたいに、残しておいて明日の朝にまた読み込みたいと思うことがよくある。

でも大抵は次の朝には、なにかを考えていたことは覚えているのに、それが何だったのかすっかり思い出せなくて、そういう時に限って逃がした魚がとても大きく、まるで世紀の大発明を不意にしてしまったような、どうしょうもないような敗北感を感じる。

でも最近はそれは忘れるべくして忘れたのだと思うようにしている。

*

昨日一杯のんだ帰り道、駅のホームに大きなカバンが落ちていた。

カバンの口は半開きになっていたので、ちょいとのぞき込んだら、その中に遺影が入っていた。

遺影の顔までは見えなかったけど、この遺影は忘れていかれたのだろうか、それとも置き去りにされたのだろうかと考えたのだけど、でも少し考えて、そのどちらだったにせよ、このいま自分の感じているせつない気持ちの対象は、この遺影の故人ではなく、今どこかで生きているこれを置いていった人に向けてなのだと思った。

忘れていったのであれば今頃困っているだろうし、置き去りにしたのだとしたら、ここに遺影を置き去りにしなければならない事情を抱えていたのだろうし、どちらにせよ、その人の心の中にあるものを想像するとせつないような気持ちになる。

そんで、ホームにぽつんと取り残されている遺影というその滑稽なこの状況に、こういういう状況に立ち会うことがあるからこそ。人生というのは面白いし、生きているということはますます興味深いなと思った。


POSTED @ 2012.10.29 | Comment (0) | Trackback (0)

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